「年間第18主日」(C年)説教
2016年7月31日・加藤 英雄師


 

  第一朗読コヘレトの言葉を読みました。 空しさ。なんという空しさ。空しさとは:はかない、空っぽである。無駄である。欲がない。わたしたちは「ない」ではなく、「ある」を求めています。働いたら実りがある。努力すればその成果がある。わたしたちは毎日の生活に充実したいのです。

「知恵と知識と才能を尽くして労苦した結果を、まったく労苦しなかった者に遺産として与えなければならないのか。

知恵と知識、才能を尽くして労苦した結果―例えば、電化製品があります。今のわたしたちの生活は電化製品に囲まれています。家に掃除機、洗濯機、冷蔵庫、テレビがあります。電化製品以上に難しいパソコン、iPadがあり、車にはナビゲータがついています。そういうものがコンピューターによって動いているという。身の回りのことが小さな機器によって、手助けされている。それはすごい事だと思います。すごい世界です。それを作り上げた知恵、知識、才能をあなたたちは考えたことがありますかと問われているようです。

掃除をする。今の子供たちは箒、はたきを知らないかも知れない。洗濯をする。盥(たらい)がある。洗濯板がある。洗濯板には刻みがある。洗濯板を見たこともない子がいる。冷蔵庫。木製の、氷を買って一番上に入れる。氷を、わたしはよく買いに行かされました。いつの間にか氷はなくなってしまう。そっと、氷を取り出し、かち割って、氷水を作るのです。
掃除機で掃除をする。洗濯機で洗濯する。冷蔵庫がある。先達の遺産によってわたしたちは快適な、便利な生活を送っています。わたしたちは感謝を忘れているのではありませんか。

今はボタンで知識が得られます。辞書、事典をひくことがなくなりました。わたしたちは何か不思議なことに出会うと、百科事典で調べました。百科事典に入って行くと、世界が広がって行きます。知りたい、知りたいと、どんどん調べて行く世界に入って行くのです。
一時期、百科事典ブームが起りました。ご家庭に百科事典を。書斎に百科事典を揃える。本棚に百科事典が並んでいる。百科事典には何か重さがあったように思います。
わたしは50数年前出版社に勤めていました。ブームのうちにわたしの勤めていた会社もブームに乗って家庭百科という百科事典を出しました。書店で売るのではなく、家庭配本の部署でした。
わたしは自分で本を売ってみようと思ったのです。休日に、朝から外を歩き始めました。訪問する。戸を開けてもくれない。話し始めると、そんなものは要らない。一日一件も注文が取れませんでした。ついには友人の家を訪問して、無理やり1セットの予約を取りました。それを会社に出したところ、それが話題になって、部署全員がその日、家庭百科事典を売り歩けと言うことになってしまったのです。みんなの顔は、お前は余計なことをしやがってという顔つきばかりでした。

コヘレトは言います。何の労苦もしない者が、わたしたちの労苦を思わず、そんな快適な、便利な生活を送るのか。快適、便利は労苦した者に与えられるのではないか。
わたしたちは先達の労苦を感謝しています。快適な、便利な生活を感謝しています。

わたしたちの遺産。わたしたちの労苦がこれからの人たちへの遺産となったらいいと思います。
神様と出会い、神様を知ったわたしたちは新しい律法のうちに生きます。その律法とは:互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。(ヨハネ13・34)わたしたちが愛を行ってゆく姿が遺産となったらいい。平和を作って行く姿が遺産となったらいいと思います。

  平和を作って行く。平和は神様から与えられるものではありません。 平和とは一緒に生きる。喜びをもって生きる。生き生きと生きることです。 平和とは、みんなが、みんな一人一人が与えるものになることです。体が不自由で、精神が不自由で助けがなければ生きて行けない人がいます。話すことが出来ない人、聞こえない人、見えない人、手足が不自由な人、手足がない人、生きるために求めている人がたくさんいます。手助けを求められている。手助けを求めている人、その人たちがわたしたちの隣人です。
平和とは隣人を愛することではないでしょうか。隣人を愛する。隣人の友となる。隣人とつながるのです。一緒にいる。聞く者になる。手助けする者になる。一緒に喜ぶ、一緒に苦しむ、一緒に悲しむのです。隣人を愛するとは隣人のために働くことです。

平和は愛。平和とは隣人のために働くことです。

イエス様、わたしは遺産がもらえないのです。遺産がある、もらう権利があるのに、なぜかわたしに回って来ないのです。
イエスはその人にこう言うと思います。
あなたはもらうことしか考えていません。遺産を与えてくださる人の人生を思い起こしなさい。その人の歩いた道を思い巡らし、感謝しなさい。そして、遺産をもらう人たちの心を思いなさい。その遺産の分け前をどれほど喜んでいるか考えるのです。
遺産の分配で争う。今、あなたがたは遺産を奪い合っているのはないですか。奪い合ってはいけない。貪欲であってはいけません。

お金持ちがいました。豊作でもっと豊かになり、食べたり、飲んだり、休んだり、自由にできる。金持ちは言う。将来のために倉を造り、この豊作をしまっておこう。イエスは言われます。物はじっとしていたら、眠っていて、役に立たない。物は働かせなさい。物によって善いものが育つのです。思いっきり食べ、思いっきり飲み、思いっきり休む。そして、その後、隣人のために働くのです。大いに働くために、大いに豊かになったのではありませんか。

自分のために富みを喜ぶのではない。隣人のために富みを喜ぶのではありませんか。
わたしたちがこれからの人に与える遺産を作り上げることが出来ますように。


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